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長崎地方裁判所 昭和54年(行ウ)6号 判決

佐世保市東山町二番二三号

原告

田中洋久

同市木場田町二番一九号

被告

佐世保税務署長

石橋次郎

右指定代理人

吉丸卓一

大村弘一

城登

金子久生

上野茂興

中島亨

荒牧敬有

永尾昭男

岡正克

右当事者間の加算税及び延滞税の賦課決定処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告が原告の昭和五一年分所得税につき、昭和五二年一〇月二六日にした無申告加算税額を金一七万四、〇〇〇円とし、かつ同年分所得税に対する延滞税額を金八万五、五〇〇円とする各賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の本案前の申立

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告はその所有していた札幌市東区北五十条東五丁目一〇三番の七九他一筆を、昭和五一年九月一〇日及び同年一二月一日に売却したが、右譲渡所得に対する課税については、税務当局から然るべき通知があるものと考えていた。その後、申告義務があることを知った原告は、昭和五一年分所得税の確定申告書を昭和五二年一〇月二五日に提出したところ、被告は同年一〇月二六日無申告加算税額を金一七万四、〇〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件加算税賦課決定処分」という。)をしたので、原告は同年一〇月三一日被告に対して異議申立をしたが、同年一一月二一日棄却されたため、同年一二月二〇日国税不服審判所に審査請求をした。また、被告は原告に対し、同年一一月八日付で原告の昭和五一年分期限後申告にかかる申告所得税額金一七二万二、八〇〇円及びこれに対する延滞税額金八万五、五〇〇円につき、同年一二月八日付で本件無申告加算税額金一七万四、〇〇〇円につき、それぞれ督促状を発布したので、原告は同年一一月一六日及び同年一二月二七日被告に対し異議申立をしたが、昭和五三年二月一四日いずれも棄却されたため、同年三月二日国税不服審判所に審査請求をした。同審判所は右各審査請求に対し同年五月一五日いずれも棄却する旨の裁決をした。

2  よって本件無申告加算税及び延滞税の各賦課決定処分の取消しを求めるため本訴に及んだ。

二  被告の本案前の主張

1  本件無申告加算税賦課決定処分の取消しの訴えは、これに対する裁決のあったことを知った日から三か月以内に提起しなければならないが、原告のした本件各審査請求に対し国税不服審判所は、昭和五三年四月一八日右各審査請求を棄却するとの裁決をなし、右裁決書謄本は同年五月一五日原告宛郵便による送達に付され、右謄本はそのころ原告に送達されているところ、本件訴えは、右送達の日から三か月以上経過した昭和五四年八月一七日に提起されたもので、出訴期間を徒過し、不適法である。

2  原告は請求の趣旨第一項後段において、延滞税の賦課決定処分の取消しを求めている。しかし延滞税の納付義務は、本税の納期限が徒過したときに何ら特別の手続を要することなく当然に発生し、その額も確定するものであり、延滞税賦課決定処分なる行政処分は存在しない。

仮に原告の右訴えが、延滞税の督促状の発布処分の取消しを求める趣旨であるとしても、右処分は、延滞税の納付義務が存する旨の観念の通知にすぎないので、取消訴訟の対象となる行政処分にあたらないことは明らかであり、いずれにしても不適法であって却下を免れない。

三  被告の本案前の主張に対する原告の認否

本件各審査請求に対する裁決書謄本を昭和五三年五月一五日ころ受領したことは認める。

理由

一  本件無申告加算税賦課決定処分の取消しの訴えについて

右訴えは、原告が審査請求に対する裁決のあったことを知った日から三か月以内に提起しなければならないところ、本件加算税賦課決定処分についての審査請求に対する裁決書謄本が、原告に、昭和五三年五月一五日ころ送達されたことは当事者間に争いがなく、本件訴えが右送達の日から三か月以上経過した昭和五四年八月一七日に提起されたことは記録上明らかであるから、結局、右訴えは出訴期間を徒過した不適法な訴えであるといわなければならない。

二  延滞税の賦課決定処分の取消しの訴えについて延滞税納付義務は、本税について、その納期限を徒過したときに特別の手続を要することなく発生成立し、その額も確定するものであるから、延滞税賦課決定処分なる行政処分はありえず、したがってこれに対する取消訴訟ということも考えられない。また、原告の求めるところが、延滞税の督促状の発布処分の取消しであるとしても、督促は、納税者が租税を納期限までに完納しない場合に、その納税者に対してなされる納付の催告であって、直接納税者の権利義務に影響を及ぼす処分ではなく、取消訴訟の対象となる行政処分にはあたらないこと明らかである。

三  以上のとおり、本件訴えは、いずれも不適法というべきであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 鐘尾影文 裁判官 加藤誠 裁判官 吉田京子)

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